ニキシー管時計
自作時計の王道といえば...やはりニキシー管になる。ネット上を少しでも探ると、ニキシー管の時計を数多く見つけることができる。自作時計はニキシーに終わる、ということか。 時計を作るためにニキシーを使うと言うより、ニキシーの用途として手っ取り早く時計をつくるといったほうがいいだろう。
当方、ニキシー管時計を作るのは2台目である。1台目は小坂井電子で購入したニキシー時計キットで、これは今は19800円だが、当時は予約で9800円、定価で14800円ではなかったかと思う。(...今過去メールをチェックしたところ、これの購入は2003年で、初回ロット9800円は売り切れで逃し、14800円で購入していました。)
この時計、5年を経て調子よく動いている。現行の19800円のモデルは、管が変わっているようで、フォントも小さくなっているようだ。この大きさのフォントからすると、CD79あたりかなあ。 アクリルケースとコルクを削ってつくったベースに収まっています。
さて、今度の時計は設計から完全自作でいく。最大の課題は基幹パーツとなるニキシー管だが、数年来のうちにコツコツ集めてきた。オクで買ったCD81の中古が10本くらい、CD79も6,7本はあるかな。ラジオデパートのキョードーで売っていたNECの管も何度か買っている。全部で30-40本くらいは集まった のではないか。オマケはやはりオクで落としたタケダ理研(現アドバンテスト)のユニバーサルカウンタで、これはニキシー管を取って、残りは捨てるつもりだった が、正常に使えるため測定器として温存してしまった。基準周波数源もオーブン入りで、つぶすには惜しい機械だったので。
設計にあたり、仕様として絶対外せないのは6桁化だ。ニキシーは前後する表示のギミックにおもしろさがあり、適度な動きを出すためには秒表示が必要なのだ。時計なんで、それ以外の仕様は特にないかな。あえて上げれば、プリント基板化して見栄えもよくするというくらいかなあ。ガラスの硬質感と、ぼーっとしてまったりなアラビア書体と、グリーンの基板はよくあいます。
まだ作っている途中なのだが、このようなものができてきた。トランスの二次側を間違えて逆巻にしたので、まき直しまで線付けです。
74141を使用していないため、セグメント駆動のトランジスタと抵抗がやたらと目立ちます。
案の定、いろいろ問題が出てきます。
DC-DCを作動させるとCPUがリセットして起動しない問題に半日悩まされました。(リセット->起動を繰り返す。)高圧がチャージされていない状態でDC-DCを起動すると、 チャージするまで大電流が流れます。これにより、CPU電圧が低下し、PICマイコンの ブラウンアウトリセットがかかっていたのです。これはPICのCONFIG時に_BODEN_OFF を指定すると解決しました。
CH1 ... Power MOS VGS (PIC PWM out)
CH3 ... VCC (at CPU)
CH2 ... Power MOS ID
CH4 ... HV voltage
このDC-DCはPICマイコンのPWMをフリーランさせている無制御型なので、フォワード型コンバータです。 (DC-DCには大別してフォワード型とフライバック型があり、フォワード型ではトランスの入出力電圧関係は巻数比で決定されますが、フライバック型の場合は巻数比だけでは決定されず、制御をしないと異常電圧になります。)
2次側は部品点数削減のため、コンデンサインプットとなっていますので起動時にこのような大電流が流れてしまいます。ともあれ、ここは_BODEN_OFFで解決しました。 (PICデータシートを見たところ、ブラウンアウトはVDDが4V以下となる状態が100us以上継続すると発生するとかいてあります。1ms程度経過すると3.2-3.8V程度になっていますので、ここでリセットしているのでしょう。)
高圧整流ダイオードがかなり発熱します。ダイオードの電流波形を見るとかなり逆電流が流れていることがわかりました。手持ちの汎用高圧ダイオード1N4007を使いましたが、これは高周波では使い物にならないようです。これを見る限り逆回復時間(trr)は5us程度はあるようで、周期20us(=50kHz)では全く使い物になりません。事前調査不足です。
CH1 ... 1N4007 VF
CH2 ... 1N4007 IF
オクで超高速ダイオードUF4007を落として交換してみました。trrは25nsとのことで、劇的に逆電流がなくなりますが、それ以上に驚いたのはVFの波形まで大きく変化し、順方向電流が導通期間中に増加する傾向に変わったことです。コンデンサインプット型整流回路なのに、なぜ?
CH1 ... UF4007 VF
CH3 ... Power MOS VGS
CH2 ... UF4007 IF
わかりやすいようにVGSを入れています。フォワード期間に、電流が増加しています。
トランスには励磁電流が流れ、この電力はコアに蓄積されます。巻線比の関係で2次側の巻数が必然的に多くなるのですが、できるだけ2次巻数を少なくするためには1次側巻数を減らす必要があります。
ところが、1次側の巻数を減らすと自己インダクタンスが減少しますので、励磁電流が反比例して増えます。コアに蓄積される電力はLI2に比例しているため、結局全体で見ると増えることになります。
1次側のPower MOSがターンオフすると、この電力はいわゆる逆起電力となってトランスから放出されてきます。特に対策をしないと、逆起電力のスパイクでPower MOSを壊すことになるので、スナバー回路で吸収させますが、純粋に熱になってしまい変換効率が落ちてしまいます。
そこで、これをある程度1次側に回生させて変換効率をUPします。ここにダイオードがあるのですが、これも手持ちの1Aクラスのごく普通のダイオードを使ったところ、trrが長く問題があるようです。
IF(普通の100V/1AクラスのDi)
(100mA / div)
手持ちの60V/1Aのショットキバリアに交換したところこちらもtrrは無視できるようになりました。
IF(ショットキバリア Di)
(100mA / div)
ダイオード交換だけでDC-DCコンバータの効率は劇的に向上しました。 交換前は5Vの定常電流が約700mAだったものが、180mAにまで落ちました。たったダイオード2本の交換だけでです。ここまで変わると、PWM起動時に発生していたPICのブラウンアウトリセットはかからないのかもしれません。
ここで効率を計算してみます。
入力 5V 180mA (約0.9W)
出力 192V 4mA (約0.75W)
効率は 80%ちょっとといったところで、まずまずです。
励磁電流の1次回路への回生は、ショットキバリアDiの平均電流が25mAになるため、約0.13Wとなります。10%以上の効率UPに寄与しています。仮に0.1Wでも年間8700時間とすれば、870Whです。大きいですよね。
DC-DCコンバータの設計法をまとめました。
隣りの桁がうっすら表示される現象で、ダイナミック表示の場合は表示素子に関係なく出てくる問題です。一般的には桁表示切り替えの間にブランキングを入れることで回避しますが、鉄則通りでもゴーストが消えません。
CH1 ... フォトカプラのLED電圧
(2V / div)
CH2 ... フォトカプラのエミッタ電圧
(100V / div)
(Time 2ms / div)
オシロでフォトカプラのエミッタ 電圧を観測してみるとブランキング時に電圧が上がっています。これは、電流が止まったことによりバラスト抵抗の電圧降下がなくなったためです。この電圧はコレクタ側の上昇がエミッタに現れており、フォトカプラのターンオフが十分でないことを意味しています。
いろいろ考えているうちに、だんだんわかってきました。
セグメントを先にブランキングすると表示が消え、ニキシーのアノード電流は流れなくなります。フォトカプラのエミッタから見ると、負荷側はハイインピーダンスに見えます。特にニキシーの場合は放電が止まるとほぼ絶縁状態になるといってもいいでしょう。
ここでフォトカプラをターンオフしても、フォトTrのベースに残った電荷はエミッタに逃げることができず、なかなか消えないのです。特にTLP627は内部でフォトTrと出力Trがダーリントン接続されているため感度が高く、なおさらカットオフしにくいといえます。
この電荷を逃がすには、セグメントのブランキングをやめてしまえば良いのです。ブランキングは桁ドライバのフォトカプラだけでやり、セグメントはそのままにします。これによって、フォトカプラの余計な電荷はニキシーを通じてセグメントに逃げるわけです。
CH1 ... フォトカプラのLED電圧
(2V / div)
CH2 ... フォトカプラのエミッタ電圧
(100V / div)
(Time 2ms / div)
セグメントのブランキングをやめるとエミッタ電圧が急速に下がっています。下がり具合が約1div過ぎると緩やかになりますが、ニキシーが消灯して絶縁状態になっているためで、ゴーストはありません。
確実なブランキングをするためにはセグメントブランキングをしない、というのは落とし穴です。
この現象は桁ドライバにトランジスタ出力のフォトカプラを使用しているからで、フォトMOSなんかだと変わってくるとおもいます。より完全性を求める場合は、100kくらいの抵抗でアノード側をGNDに落とした方が良いと思います。
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