信号発生器MG3642Aの修理


はじめに

オクに入札して放っておいたら落ちていた、お約束の「3N」ジャン測。
12桁!の7セグ周波数表示のルックスがなかなか良く、アンリツ製SPAとデザインもマッチしているようだ。

入手時の状況

(出力レベル)
約9dB低く、RF Amplifier abnormal が表示される。

レベル低下は全周波数帯で発生、設定を上げても -2dBm以上にならない。
オクの出品画像を良ーく見ると、実はこのエラーは出ている。
そういうのもあってあまり釣り上がらなかったのかも。

(周波数)
問題なし。

(その他)
筐体には封印シール、 オプションなし、 多少のスリキズ等はあるが、凹みなどはない。

調査と修理

サービスマニュアルはネットをくまなく探しても見つからなかった。
TEKや HPあたりだと大抵見つかると思うが、アンリツは基本的には公開していないようだ。
これはアンリツだけに限らず、日米の保守に対する基本的な姿勢の違いだと思う。
アメリカ人は家が壊れると自分で直すと良く聞くが、日本ではマイナーである。

電源、CPU基板、AUDIO基板、シンセ、RF、ステップATTのブロック構成でシンプルだ。
トランス式のリニア電源であることに驚く。

状況からRFに問題があると予想されるが、他も調査。

・電源正常
・ステップATT正常
・シンセ出力をSAで確認
修理書がないため適正レベルはわからないが、周波数は問題ないため、一応OKとする。

内部は比較的綺麗でホコリは少ないが、気持ちよく修理を進めるため適宜清掃しながら分解を進める。
大きなホコリは無くても雑巾をかけるとけっこう黒くなる。

(スペクトル異常)

狭帯域で見るとわからなかったが、スパンを広げると盛大な高調波が出ている。
どの帯域でもこんなスペクトル、画像は1MHzの例。

↑を見ると矩形波だろうと予想がつくが、案の定。

こんな波形が出ている。

(RFブロック修理)

サービスマニュアルが無いため、まずはシンセ入力からRF出力まで観察・トレースする。
信号経路がすべて基板表面に出ているため、トレースは難しくない。

(参考)トレースしたRF経路

ミキサーはなく、低域を分周で作っている点が特徴的だ。
なるほど、この構成だからFMデビエーションが以下の仕様なのか。

分周器は数段カスケードされており、ファイナルのドライバ手前で最終分周器がスイッチインしている。
どんな周波数でもNGなので故障は共通部、つまりファイナルドライバ以降と推測される。
分周器前も共通となるが、フィルタがあるため矩形波にはならない。

プラグイン構成のため通電プロービング困難だが、故障部分が絞り込めたので広く探し回る必要がないのが幸い。
作業性向上のため穴あき基板で端子を作ってリード線で延長して観察する。
低周波の探索で良いため、この程度の線は問題なく、 オシロもハイZで良いから負荷の考慮も不要。

(From Right to Left)

    Fout 125KHz Fout 10MHz RF OFF Remks
    Freq V rms Freq V rms    
1 Divider in 32MHz 2.3V 40MHz 0.9V    
2 Divider out 125kHz 100mV 10MHz 200mV    
3 Driver out   970mV   1.7V   3/2= ~20dB OK
4 PA in   590mV   1.1V    
5 PA C   -5V   -5V -5V OK
6 PA D   See Note1   See Note3 0V Abnormal
7 PA A   9.5V   9.5V 9.5V OK
8 PA B   See Note2   See Note4 4.6V Abnormal


ドライバ部のアンプは ERA-5 (Mini circuit)と思われ、ほぼ20dBのゲインが観測されていること、波形の歪みもなく正常。

故障箇所はファイナルに限定された。
ファイナルチップは HMMC-5104。HP製のようだ。
探すと出てくるが(ebay等)、高価 (150USD〜)で、ファイナル交換だと萎える。
このチップをファイナルに使ったSGは当のHP含め各社あるようだが、他の20dB程度のアンプに置き換えてしまう修理例が複数見つかる。
HMMC-5104はハイパワーが売りなので、置き換えてしまうとパワーは出なくなる。
まあ普通0dBmも出れば十分なので、特に困ることはないだろうが。

HMMC-5104のデータシートは見つからないが ダイ製品 HMMC-5004 の統合パッケージ版らしいとの情報を発見。
電源ピンは4本あり、 -5V(C), 5V(B) 9V(A), 9V(D) 程度で、このうち 5V(B) と 9V(D)ピンが異常な電圧変化(Note 1〜4)を示した。
ここは電源なので一定であるべきところ。

RF OFFにすると、Dピンが0Vになることに着目。
ファイナルを切っているのかとも思えたが、他は給電されているためDピンの基板側をトレース。
Dピンはチョーク経由でAピンと接続されている。
Aピンは給電されているため、0Vはあり得ない。
いったん電源を切ってテスターでA−Dピン間抵抗計測、100オーム以上。
チョークと配点抵抗程度なのでせいぜい数オーム以下が正常値。チョーク(L80)の断線を発見。

8回巻き、線径0.3mmのようだが、手持ちの関係で0.26mmで巻きなおし。

取り付け後、RF Amplifier abnormal表示は消え、波形も正常となった。
十分自立しているため、接着剤はつけない。
この手の接着剤は後で問題になることが多いから、やたらとつけない方が良い。
ファイナルIC周辺の半田が汚いこと、L80チョークは接着剤が最初からもげていたことから、メーカ保守が触ったと推測。

性能確認

(レベル)

50MHz出力レベル確認、SPAはレベルCALしていないため多少ズレがある。
CALしたデータは後日取りなおそう。

Set MS8609A Pwr MS8609A SPA
-140   -143
-130   -134
-120   -121
-110   -111
-100   -101
-90   -91
-80   -81
-70   -71
-60   -61
-50   -51
-40   -41
-30   -31
-20 -20.1 -21
-10 -10.3 -11
0 -0.3 -1
10 9.9 9
17 17.2  
20(UNCAL) 20.8 20
23(UNCAL)   20

この機の出力は比較的高く+20dBm以上出てくるからSAに直結する場合は注意が必要だ。

(スペクトル)

2nd高調波 -40dBc 程度で仕様(<-30dBc)どおり。

修理後記

アマチュア的に見ると、2-3次高調波が多いと感じる。
「新スプリアス」では-50dBc以下を求められているため、送信機がこの性能だと不合格になるはずだ。
しかし、SGの出力は広帯域アンプ以後LPFが入っていない。それでこの性能が出ている。

制御基板とRF基板は分離され、ダイキャストブロックの両面についている。
制御信号を光カップリングしてノイズ対策としているようだ。
プログラマブルディバイダ部の光カップリングは同一面なのでわかりやすい。

最初基板の至る所にLEDっぽいものがあるので何だろうと思ったが、制御信号伝達だったのだ。
MG3633Aで採用された方式のようだ。(以下、MG3633Aカタログより)

チップ部品は特定が難しい
E5→ERA-5? ,SOL→HSMP-3880?, BB→1SV128 ? おそらく。
分からないものも多い。

保守性はやっぱりHPに軍配
ねじが少ない
ねじの種類が少ない
基準周波数調整がフロントパネルからできる(Ref OSC TuneにDACが組まれている)

それでもダイキャスト切削ボックスなど、民生品とは違うなぁ。

ギャラリー

AUDIO、CPUカード、CPUは68K、空きランドはPLCC版68K用

REF OSC、OP無し標準品

電源レギュレータ、今時珍しくリニア電源

カットコアの大型トランスと平滑ユニット

Synthユニット、YTO使用、4〜8GHz/4で1〜2GHzを出力するようだ

RFユニット、最大1/4096分周をして125kHzを発生

Top View

Bottom View

ここまで来ると重量級になってしまう。
20kg弱、MG3633Aは32kgだというから軽い方か。


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Created: 2020/08/03
Updated: 2020/08/12