ブリッジM2修理

修理といっても壊れたわけではなく、D/Qボリュームが少しガリっているのと、メーターが右に振り切れたときに引っかかる(軽くたたくと戻ってくる)点が気になっていた。

uHオーダーのコイル測定の必要性があって、正直、これを修理依頼するか、L/C Meter IIBを買うか(M2修理よりこっちのが安いのだが)ちょっと迷ったのだが、結局修理することにした。なにげに抵抗を測定したら驚くほどの精度で測定できているため、迷いはなくなった。これの良い点はコンデンサ、コイルを測定すると、実数成分から来るQ(D)が測定できる点だ。安価なLCRメータでQやDが測定できるものはほとんど無い。もちろん1kHzでの値なので、高周波となると特にコイルは表皮効果によって全然違ってくる。

修理明細をみると、メータ交換、X(測定)端子交換、オイルコン交換、ゴム足交換と各種調整、校正とクリーニングを行ったようだ。交換された部品も同梱されていた。ついでに取説が無かったので、1部コピーを依頼しておいた。

修理あがりの本体、取説、試験成績書


校正シール(前回は20年以上前)

この種のメータ(ラジケータ)は規格品がなく、引っかかり問題はあきらめていたのだが、新品に交換されていた。どうも数年前に三田無線80周年記念モデルブリッジM1Dのメータと同じもののようだ。

 取説をみると、トランジスタは2SB113になっているが、実物は2SB56である。基本的には汎用トランジスタで問題ないのでロットにより違うのだろう。どちらもゲルマニウムトランジスタである。

修理からあがってきたメーターで電解コンデンサの容量とESRを測定してみた。ESRは直読できないので、計算する必要があるがさほど面倒ではない。測定結果はブリッジ自体の残留抵抗(4mΩ)を引いている。

試しに手持ちの各種1000uFを測定してみた。

日本ケミコン KZH
1000uF/25V
日本ケミコン KMG
1000uF/35V
ニチコン MUSE
1000uF/25V
ニチコン HE
1000uF/25V
C=998uF
ESR=27mΩ
C=920uF
ESR=113mΩ
C=995uF
ESR=66mΩ
C=1010uF
ESR=32mΩ

古い測定器だが非常に優れた分解能である。また、電解といえば容量はラフで、2割の誤差は平気で存在すると思いきやそうではないようだ。ここまで低いESRを測定するとなると、当然ながらリード線の影響が無視できない。ブリッジの陸式端子にコンデンサをそのままつけているので、リードの抵抗値がかなり入っているはずだ。

日本ケミコンKZHとニチコンHEはいわゆる低ESRタイプである。通常品のKMGに比べてみると明らかにESRが1/3程度と良好である。MUSEはいわゆる音響用で、どういう物理特性なのかはわからないが、ESRとしてみると通常品よりは低いが、低ESR品ほどでは無いようだ。ただ、音響用なのかリードは4つの中でもっとも太い。

ブリッジで部品を測定すると手間がかかるのは間違いない。特に全く不明な値の部品を測定しようとなると、レンジを切り替え、バランスノブを何回も回す必要があり、最終的な測定結果に落ち着くまでに30秒程度はかかるだろうか。オートレンジのデジタルなら、かかっても3秒だろう。しかしながら、測定結果は安いデジタルよりも遙かに上であるし、全く不明な値の測定をおこなうことも、実際には少ないだろう。

このブリッジはもらい物で、もらったのはもう20年くらい前になる。校正の成績表にも30年以上前のキカイとあり、とても古いのだが測定器の本質である精度に関しては最新のものに比較して少しも見劣りしないのはたいしたもんである。ブリッジは天秤と同じで、零点調整(null method)により測定結果を得ている。精度に係わるものは、分銅の役割となる内部の基準抵抗やフィルムコンデンサだけである。発振器やアンプなどの能動回路は少しも精度に関与していない。基準抵抗とフィルムコンデンサの安定性が、そのまま測定器の性能になっている。

改めて、この古い測定器の結果に驚いたとともに、これからも大切に使おうと思った。

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