ジャンクオシロTektronix2465Bレストア


はじめに

2465Bはテクトロが製造した最終期のアナログオシロで、最高のオシロとの評価が多い。
ジャンク品を入手したので、レストア行う。
ハイスペックなアナログオシロは世界的に製造完了しており(2021現在)、中古価格は上昇を始めたようだ。

入手時の状況

ソニーテクトロ時代の製品、シリアルJで始まる日本製。
CRTシールド上に K.Suzuki のサイン入り。

・電源は入りトレースは出る
・CRT焼けなどなく良好
・ファンうるさい
・CH2ポジション暴れる (勝手にトレースが上下)
・全CH波形観測可能、1GHzでも同期OK(さすがテクトロ、400M機なのに1Gでも同期)
・CPU反応遅い(ノブを回しても輝線はスムースに上下せずガクつく。カーソル等も同じ)
・スケールイルミ球切れ
・自己診断エラーなし
・フロントポテンショ裏のフレキ配線が断裂、リード線で補修(CH2の暴れはこの断線が原因)

2465Bでありがちな故障は「ハイブリッド」と呼ばれるカスタムICが壊れるもので、当然新品などは無く、中古部品を買うか、同機種のジャンクを買って2個1するかになる。
いずれどこか壊れるわけで、保守を考えれば状態が悪いジャンクを買っておき、2個1が一番いいのかもしれません。
ハイブリッドという名前ながら、実際にはほぼモノリシックのようで、チップ周辺に若干のCR等がついているようです。
背中にチップコンを載せた現代のCPUのようなイメージだと思う。

とりあえず「ハイブリッド」は死んでいないこと、CRTが元気なので外れではないようです。

電源ユニット

SW電源+リニアレギュレータ構成で、基板はサンドイッチ構造。
定格出力は分からないが100W以下だと思われる。
現在(2021)のSW電源から比べると非常に集積度が低く巨大だが、メンテしやすい。

(SW電源部)
ハイサイド側FETをPWM制御して降圧DC-DCコンバータを構成しながら、主トランスをプッシュプルドライブするためローサイド側にもFETを設け、ハイサイドのPWMに同期してフリップフロップで ローサイドを切り替える独特の設計。
ハイサイドのチョークはサブ電源やプッシュプル信号発生を兼ねた若干複雑な構成だ。
通常のフォワード型コンバーターならチョークは二次側にあるが、これは一次側。
主制御ICのTL494はQ,/Q信号をもつため、このような構成にしなくてもプッシュプルを実現可能だが、 おそらくTL494以前に実績があった回路を流用し、主制御チップだけ変更したのかもしれない。

(リニアレギュレータ部)
出力素子に3端子レギュレータを使う部分でもOPアンプでエラーアンプが組まれており、すべての回路が基準10Vで管理されている。
従って部品点数が多い

AC入力・リニアレギュレータ部

黒いサイコロは小型商用トランスで、ライントリガー発生用。

EMI防止Xコンデンサがパンク、直列抵抗が焼損し基板にもダメージ。
パンクしたコンデンサはSchaffner製で、経年劣化で燃えるとして悪名が高く、交換マストとされている。
RIFA製コンデンサも同様。

単品コンデンサだけではなく、インレット型ノイズフィルタも燃えるから、もしSchaffner/RIFAがあったら絶対に交換が必要だ。
これらはFLUKEなどにも使われているから、2000年以前の海外製機器に対して必ず確認が必要。

ボードを観察すると、Schaffner/RIFAはXコンのほかYコン、スナバ?にも使用されており、全部交換する。
X,Yコンは必ず安全規格品を使う。(Google Xコンデンサ)

SW電源部

封口ゴムの劣化によりわずかな電解液の漏れが始まっているようだ。
電解コンメーカのテクニカルドキュメントを見ると、電気的負荷にかかわらず封止材の劣化により15年を寿命としている。
本機はこれを遙かに超える(>30年)ため、電解コンは電気的劣化にかかわらず全て交換することにした。
例外として1次チューブラは、同形状・定格のものが無いこと、電気的劣化、漏れも無いので温存した。
ラジアル品を入れてもいいが、ルックスを優先。
電源部は基本的に低ESR電解コン、すべて日本メーカを使う。

単体試験
+5VD(リニアレギュレータなし)を2.5A引いて試験。無負荷では正常作動しない。



このとき、 SW電源リプル40mV p-p程度
サービスマニュアルでは許容<150mVのため、良好。

日本製(Sony/Tek製造)のため、汎用部品は日本製がほとんど。
本体は89年製のようだが、このOPAmpは80年。なぜかJRC製だけ古いものが多いようだ。

CPUボード

2465Bには前期・後期型があり、最も違うのがCPUボード。
後期型はSMD部品が多用され、前期型では別体だったリードアウト基板が一体化されている。
これは前期型、すべてリード部品。UV-EPROMが懐かしい感じ。

デートコード89年、電池は生ものなので構成パーツの中で最も「新しい」と考えられる。
おそらくオシロも89年製と思われる。

驚くことに30年経過しても3.7Vをキープ。
リチウム電池でも特に長寿命な塩化チオニル電池を使っているためだ。
後期型はDallasの電池内蔵NVRAMだが、この電池はMnO2系のためこれほど持たない。
やっかいなのはこの電池でCALデータをバックアップしているため、ある日突然電池切れでCALデータが飛んでしまうことだ。
この点では長寿命、かつ電圧監視回路が組まれている前期型のほうが良いかもしれない。

(メンテナンス)
電解コン→OSコンへ。
オリジナルは47uFだが同サイズ・同容量が無いため56uF。
電解コンは数値上劣化していない。(C=47uF、ESR=1.5Ω)
OSコンのESRはさすがに低い。(ESR<0.1Ω)
電池も交換。 別の電池でバックアップしておき、その間に交換。

外した電池はLEDで空にして廃棄。
塩化チオニルは内部抵抗が高く、バラスト無しで点灯。
LED点灯時間から、残容量200mAh程度あった感触。
30年以上経過して1/3〜1/4残っているのはすごい。

メインボード

電解コン打ち替え、電源系はOSコン採用。 全部OSコンに入れ替えてはいけない。
カップリング、Hi-Z回路へのOSコン採用は禁止されている。 そのような部位は引き続き電解を使う。
最近のOSコンはアルミケース内に栓が落ち込んでいるため、そのまま搭載すると基板にケースが接触する。
ケースはラミネートされているが絶縁保証がないため、基板にカプトンを貼って搭載。
ESD破壊防止と作業時軽量化のため、ネジ固定HICは全て除去して作業。

SMではMC3346P(トランジスタアレイ)だが、本機では同等のHA1127が使われていた。

ドンガラは水洗いしてリフレッシュ。

スケールイルミ

ムギ球3直列。定格5V 0.115Aで押野電気製となっている。
LED化も一案だが、鈴商に同じ定格のランプがあり(スタンレー製)、オリジナルを重視あえてLED化しないこととした。
白熱電球というのも、なかなか乙なものだと思う。
オリジナルより若干太いようだが、問題なくランプガイドに入る。


 

高圧、CRTドライバ

電解コン交換、チューブラ 100uF/25V。最近はチューブラの入手が難しい。
オリジナル品は松下。C=103u, ESR=0.75で電気的には劣化していなかった。
あえてチューブラを探して交換。海神無線で購入。
SMではもう1個有極性コンデンサがあるのだが、この機体では積セラに交換されていた。
高圧によりスス黒くなっているため、掃除をしてメンテ完。

クーリングファン

日本電算のTA300DC。
驚くことに2021年現在でも同シリーズが存在するが、 さすがに30年以上経っているから同一モデルは無い。
ファンは消耗品なので新品交換が原則だが、ラベルを剥がしたらベアリングにアクセスできるのでベアリング交換とした。
ベアリング交換すれば、機械的には新品に戻る。しかも1個100円程度と非常に安い。

ラベルを剥がせばベアリングにアクセス可。ローターは水洗い。

ベアリグはモノタローで購入、内径3mm、外径8mm、厚み4mm、90円。

圧入されていないため、指で押し込む程度でセッティング可。
DC電源で確認。滑らか、問題なし。

CRT

高圧による静電吸着で例外なく煤ける。しかし、選択的に黒くなるのはなぜなのだろう。
精密ガラスであり、偏向電極が管壁に出ているため取扱には非常に気をつける必要がある。
汚れても性能に影響しないため、 一般にはCRTは外さない方がいいだろう。

ファンネルはセラミック
アノードはキャップではなく、リード接続となっている。
高圧コネクタはAldenだと思う。

電子銃と偏向・電子レンズ、非常に精密で「工芸品」

垂直偏向電極、すごい
1/10,000インチ精度で作られているらしい
左側の凹部にピンが出ており、ここが機械的に特に弱そうな部分

回路図ではこうなっている
偏向電極自体が平衡伝送線路になっており、いったんCRTから出て終端されている。
こうなっているのは偏向電圧の進行速度を電子の飛行速度にあわせて偏向率を高めるほか、広帯域化が狙いだと思う。

旧テクトロのロゴ、CRTのデザイン

youtubeにテクトロの動画VintageTekがあり、CRT関係もかなりある。
セラミックCRTの製造など貴重な動画が多い。
昔は部品から自前で作らねばならず、まるで機械工場のような場面も多い。
ロゴにもなっていたCRT製造をやめたのは英断だったと思う。
動画にCRT関係者が出てくる。まさに「破壊的技術」でCRTは無くなったと言えるだろう。

操作パネル

このフレキは入手時破損していた。
EbayのQServiceよりパーツ購入して補修。
フラットケーブルで補修してもよいが、オリジナル品にこだわって修理。
調べると ポテンショの極性は一様ではなく、逆になっているものがある。
リード線修理したらハマったはずだ。

調整・動作確認

(DAC調整)
DAC出力スパンを2.5Vに調整するとあるが、VRを目一杯回しても2.45V程度で調整が付かない。
回路図を確認すると、VRコモンは高抵抗300kに電解コンのパラ接続。
ここはHi-ZのためOSコンは使用できないのだった。
メインボードは事前に確認していたが、CPUボードは全部電源用だと思い込んでいた。
通常の電解コンに交換、問題なく調整完。

OSコン→電解コン(C2010)

セルフチェックエラーなし。

結構使われた個体だが、電解コンを交換したから気にすることは無いだろう。
CRT焼けも全くない。

(CRT調整)

CRT全体を均一・シャープにフォーカスさせるのはかなり難しい。
FOCUS, ASTIG, EDGE FOCUS, GEOMETRY の4つを同時にいじって調整だが、SMにも妥協が必要と書いてある。

CRTゲインがV軸、H軸とも若干ズレていたため調整。
FGで適当な信号を入れて、振幅軸、時間軸が大きくズレていないことを確認。
従って フルキャリブレーションは見送り。

設計が古く、ソフトキーのような使い方がほとんどされていないため操作性は悪くないが、CPUが遅いのか特にポテンショの反応が若干鈍い。
テクトロにこだわりがなければ、ハイスペックなアナログオシロとしては設計・製造が新しい岩通SS-7800シリーズを選んだ方がいいだろう。
岩通は明らかにテクトロを意識して作っている。
ただしカーソル、B掃引、ホールドオフなどがマルチファンクションダイアルにアサインされるため、操作性はテクトロの方がよい。

(TTL方形波Rise-Up)

パルスジェネレータでないため真の実力はわからないが、他と比較して妥当なところだろう。
Tek2465B (Int 50ohm終端)

TDS3034改(3054相当) (Int 50ohm終端)

岩通 SS7821(Ext 50ohm終端)
SS7821は50ohm終端を持たないため、二股で追加。
オーバーシュートがきついのはその影響と思われる。
0-100%のスケール位置がテクトロと違う。
ボケているのは手ぶれのせい。輝線は岩通のほうが細い。

(BWチェック)

ソースHP8648A 10dBm(2Vp-p@50ohm)
CH1,2は内蔵終端、CH3,4は二股外部終端

-3dB@450MHzあたり。
CH3,4は若干クセがあるようだ。

メンテまとめ

(必ず交換)

SchaffnerまたはRIFA製フィルムコン。
ショートモードで故障し、発煙する事故が多数報告されている。

シリアル番号>=B050000、A5ボードのSMD電解コンデンサ。
リークによる周辺部品破壊が多数報告されている。

CALデータバックアップ電池またはNVRAM。
寿命を超えているため、いつCALデータが揮発してもおかしくない。

(交換推奨)

プリレギュレータ(SW電源)出力平滑コン。
負荷(リプル電流)がかかるため、電気的劣化が進んでいる。

(できれば交換)

全電解コン

寿命は長くて15年とされている。
封口材劣化によるもので、電気的負荷や使用頻度と関係が無い。
25〜30年経過している2465Bは遙かにこれを超えている。

ただし、A1基板については作業失敗による破損リスクと天秤にかけて判断すべき。
電源は汎用部品+両面基板のため破損させても修復は容易だが、 A1は希少専用部品+4層基板のため修復は困難だ。

(熱問題)

エアフローを確保するため、ファンのメンテナンスを行う。
調整時は 筐体オープンで作動させるが、寝かせるとA1基板のエアフローが不足、希少なハイブリッドICを壊す原因になる。
立てておけば自然対流でオーバーヒートしないとのこと。

(U800 水平ドライバ)

このICのケアに関しては諸説あるが、様々なソースを見て次のように結論する。
・原則的に触らない、ヒートシンクをつけたりしない、特にナットは回さない
・製造時期に依存し、壊れやすいチップ(熱くなる?)が存在する
・初期型(TEK製造)は壊れない
・中期型(MAXIM初期製造)は壊れる
・後期型(MAXIM初期以降)は壊れない
・チップが高温になる・ならない、いずれも報告がある
・ヒートシンク取り付けなどでナットを動かすとその機械的ストレスによって壊れる
・菊ワッシャの上にICにを載せ、ナット固定してハンダ付けという奇妙なスタイル
・ナットを動かすと菊ワッシャのコンプライアンスでICピンにテンションがかかりチップを壊す

(外したパーツ)

(おまけ)岩通はテクトロを意識?

取説に自社エントランスを載せるアイデアは、なかなか出てこない。

Tek565

岩通SS3510

回路構成なども参考にしたな、と思わせる点がある。


[戻る]

Created: 2021/01/27
Updated: 2021/02/10