VCXOの設計

VXOは可変周波数水晶発振器(Variable Xtal Oscillator)の略で、名前の通り水晶発振器でありながら周波数を可変できる発振器である。水晶の安定性と可変発振器の利便性を目的としていて、無線には昔からよく使われる。通常はコルピッツ発振器の水晶にコイルとバリコンをシリーズに接続することで実現することが多いようだ。

コイルは非常に重要な要素で、可変幅や安定度に影響を与える。インダクタンスと周波数、可変幅のイメージは下図のようになる。一般に、安定動作を行うVXOの可変幅は水晶固有発振周波数の0.5%程度であると言われている。インダクタンスを増やすと、明らかにこれを越える可変幅が得られるようになる。しかし、この領域では水晶発振をかけ離れて動作しており、もはやLC発振になっている。DACでは、カテゴリ2でもプラマイ1000ppm(0.1%)のロックレンジが確保できればよく、0.5%の可変幅はおつりがくる。

周波数偏差とインダクタンス

PLLのVCOとしてVXOを用いる場合、電圧で周波数を変化させるためにバリコンをバリキャップに置き換える。このため、VCXO(Voltage Controlled variable Xtal Oscillator=電圧制御可変水晶発振器)という。バリキャップにかける電圧範囲が広いほど、広い可変領域が確保できるのはいうまでもない。
調整幅が広く、制御電圧に対して周波数が直線的に変化するためにはバリキャップに負バイアスを与え、オフセット調整も負バイアスで行う方式が良いと思われる。また、可変幅の調整はコイルで、周波数の微調整は負バイアスと役割を分けることで設計及び調整も楽になる。

しかし、負電源をもうけることが面倒なため、バイアスを与えずにバリキャップのアノードをそのままGNDに落とした。上図を見ても明らかなように、この回路構成ではインダクタンスに周波数微調整と可変幅調整の役割が生じるため、xtalの固有周波数をシビアに選定する必要が出てくる。つまり、プラマイ1000ppmの可変幅と中心周波数384fsを同時に満足するように水晶発振子とコイルの定数を選ばなければならない。

また、バリキャップ規格表の低電圧側が2Vになっていることから予想されるように、バリキャップに低い電圧を加えると特性(特に直線性)が悪くなることも考えられる。しかし、PLLではVCOの直線性はあまり問題にはならない。

定数は実験の繰り返しによって得ることが必要であった。たとえばCDのようにfs=44.1KHzの場合は384fs=16.9344MHzであり、これを可変幅の中心周波数とする。バリキャップに加える電圧を0-5vで変化させ、変移が2000ppm程度になるようにコイルと水晶を選択する。変移はだいたいでよく、1500程度から3000ppmにあれば良い。また、コアの位置を大きく変化させても5000ppmを越える変移領域入らならないようにしたほうが良い。

この作業を32KHzと48KHzのVCXOでも行い、最適なコイルと水晶を選択する。最初は水晶を目的周波数(384fs)の0.5%高めで作成し、最終的なものは実験で適切な周波数を再計算して発注した。様々な巻き数のコイルと組み合わせ、数十回の実験で出てきた定数は以下の通りであった。
 
fs 384fs コイル巻数 水晶周波数
32KHz 12.288MHz 44回 12.334MHz
44.1KHz 16.9344MHz 27回 16.975MHz
48KHz 18.432MHz 25回 18.482MHz

 
実験回路
特注した水晶振動子
実験中の基板(と転がるコイル)



【バリキャップ】
バリキャップは1T33(ソニー)を使った。秋月に@10円で山盛りになっていたが、今は売り切れてしまっているようだ。特性は以下の通りである。特性の異なるバリキャップを使う場合はコイルの定数変更が必要になるだろう。
 
型番 用途 VRM
(V)
VR
(V)
端子間容量
min(pF)
端子間容量
max(pF)
容量比
1T33 Tuning 35 30 27.19(2V)
2.71(25V)
32.03(2V)
3.04(25V)
10(2V/25V)



【コイル】
コイルは市販の7sタイプのコア付きボビンに巻いた。コアとともに、壺型のかぶせる磁性体、シールドケースが附属している。これらを装着するとインダクタンスが変化するため、実験時にも装着しなければならない。厄介なのはシールドケースを装着すると、外すのはほぼ不可能になることだ。無理矢理外すとかぶせる磁性体が破損するか、ボビンの付け根が破壊される。このため、実験時はシールドケースのラッチ部を切り取ってしまうと良い。また、シールドケースを装着する時にも注意を要し、やはりかぶせる磁性体を壊さないよう慎重に押し込む必要がある。ボビンをケースに垂直に押し込むのが難しい。ボビンは5段セパレートになているため、コイルが均一になるように巻くこと。たとえば27回巻きは5+6+5+6+5とする。ワイヤは壊れたリレーから巻きほぐしたものを使った。太さは実測で0.09mmであったが、おそらくは0.1mm規格であろう。ちなみに購入したコアには頭が黄緑色にペイントされている。他の色のコアだと、おそらく巻き数を変更する必要があると思われる。ちなみにコアは千石電商で@100円位で購入したものだ。



【水晶発振子】
水晶は特注となる。注文する際にHC-18Uタイプ基本波、VXO用であると明記されたい。水晶はカットの仕方で周波数偏差の固さが変わるため、VXO用と指定することで可変しやすいカットで製作してもらえる。おそらくはATカットであろう。特注水晶は川崎電波研究所(Tel:044-877-0901)にて製作してもらえる。1個1800円だったと思う。特注水晶を1個から作ってくれるところはかなり少ない。川崎電波さんはNet Newsで教えてもらった。

ちなみに、コアの調整には専用のドライバーを使用すること。また、コアは非常に割れやすため回す時は気を付ける。適切でないドライバを使うと、簡単に頭が割れてしまう。



[戻る]