FLUKE80シリーズ3兄弟


はじめに

このDMMを使っている方は多いと思う。その評価も高いようだ。
初代からシリーズ変遷を経て、現在はシリーズ5まできている。
80年代後半に発売されているから、マイチェンしながら約30年販売されてきた驚異的なロングセラーだ。
初代のカタログは「21世紀仕様のDMMといえます」と結ばれており、名実伴った名器と言えよう。

カタログ('89/04)より (スキャンPDF)

手持ちの80シリーズ

最初に購入(新品)した85(中)。確か高2か高3(1990年頃)東洋計測器から通販で購入したと記憶。
高校生にFlukeかとも思うが、実際30年近くつきあっているからほとんど「一生もの」である。
付属のはがきでユーザー登録したら、なぜかTIME誌が送られてきた記憶がある。あれは何だったのだろうか。
某かの不具合で一度修理に出したような記憶もあるが、なにぶん30年近く経過しているから定かでない。
現役で使っている。

次に購入した87(右)。これは2000年にオクで入手。確か故障品ということで安く落とした。
メーカ修理に出したが、 校正程度の費用しかかからなかったと思う。
返却時に校正されていたので「お得」であった。 これも現役としている。

こうなると83も入手したくなるものだ。オクでジャンク品を格安落札(左)。
この83は裸で、ホルスターはついていなかった。
多少怪しい動きがあったが、ロータリSW接触不良のようでクリーニングしたら直った。
一通りチェックしたので現役として使える。
長らく校正していないのだろうが、他のフルークと比較して差はなく、1カウントあるかないか。
FLUKEの精度を保っているのは、セラミックベース薄膜抵抗のような、専用部品に依存するところが大きいと思う。
下画像手前の青塗装がセラミックベース薄膜抵抗ネットワーク。

カタログにあるグレーのホルスターが欲しいところだが、もう無いとのこと。これでコンプリート。
シリーズ網羅するととんでもないことになるので、このあたりでやめておこう。

80シリーズ以外では77と8040A(ベンチ型)を保有。こちらもオク。

たまに校正

業務用で使うならトレーサビリティ云々で年1校正をかけるのだろうけど、個人ユースだからそこまでしない。
既に書いたが校正しなくても絶対精度があまり変化せず秀逸だし、何台もあるから、おかしくなっても分離できるのだ。

それでも、85と87はたまに校正に出している。
「サポート期間終了のため、故障が発見された場合は辞退」との条件付きになっている。
30年近く前のものであり、致し方ない。

現在はテクトロと一体化したようで、TFFフルーク社になっている。
昔は個人でも後払いで校正してくれたが、今は前払いになっている。

秀逸な点

30年前の設計だが、今(2018)でも秀逸と思う。

1.入力警報

電流モードで電圧を測ってしまうことは、ベテランでも(ベテランなら?)一度はやったことがあるだろう。
ヒューズが無ければ 分流器が焦げ、煙と異臭で「しまった」と気づくが手遅れである。
ところが、FLUKE80はそうならない。
ヒューズにより保護されているが、それ以前にヒューマンエラー防止機能があり、これが優れている。

電流端子にリードを入れ、電圧レンジを選択するとアラームが鳴るのでミスに気づく。
この機能に何度か救われている。

そうはいっても小電流ヒューズは何度か飛ばしている。即断ヒューズだから過電流ですぐに切れてしまう。
このヒューズが高いのと入手が容易でないところが玉に瑕。
電力回路に入れた際の事故を防ぐため、遮断能力がきわめて大きいヒューズが入っている。
その遮断電流は1Aもので10kA、10Aものだと100kAというスペックだ。
このヒューズには中にケイ砂のようなものが入っている。これがアーク消弧するのだろう。

2.反応が早い

どのレンジでも十分な反応速度だが、特に秀逸なのが導通チェックだ。
1msの接触、断線を遅延鳴動により判定できる。一瞬の断線や接触もわかる。
多線コネクタの導通チェックならテスター棒で端子をさーっとスキャンすればよい。
1ピン毎に待つ必要はない。 ピーと鳴ったら、2,3戻して導通ポイントを確定する。

3.AC結合、AC特性

ACレンジは交流結合になっている。
たとえば直流電源のリプルは電源の質として重要なチェックポイントだ。
精密に測るためにはオシロが必要だが、おおよそならFLUKE80でDC,ACそれぞれ測ればよい。
おおよそというのは、整流後のリプル波形が正弦波でないためだ。
87なら真の実効値が表示されるが、リプルではむしろPP値が重要なのであり、あくまで参考値である。
最近の高機能DMMだと、DC,AC,DC+ACが表示出来るものもあるようだ。

20kHzまでスペックされたAC応答(85,87)も評価できる点だ。
オーディオ帯域なら他のAC電圧計を要しない。

4.使えるピーク検出

MIN/MAXホールド。これが結構使える。この例外的な使い方を1つ。
電池が弱っているかどうか、電圧だけではわからない場合も多い。
こういう場合、高電流レンジにしてMAXホールドをかけ、一瞬の短絡電流を読む。
ホールドが無ければ読むことはできないし、反応が遅ければ短絡時間が長く、電池への影響も大きい。
全モデル100ms応答でピーク値を読み出せ、特に87なら1msが選択できる。
(積分型コンバータ故、高速応答のトレードオフとして読み取り精度は悪化する。)
おそらくMAXホールドやピーク読み出しを選択すると、スピード優先にADコンの動作を変えているのだろう。
87はピークホールド専用回路を持っているようだ。
単にADコン読み取り値を保持しているだけではないのだ。

これら秀逸な機能は、本機専用のカスタムLSIによって実現されている。
FLUKEはDMMを世界で最初に作ったメーカであり、主要ICは自社設計である。

ところで、FLUKE創立者John FlukeはHP共同創立者David Packardのルームメイトだったという。 興味深い。

メンテナンス

経年変化により、液晶の一部セグメントが薄くなる場合がある。
基板と液晶を接続する導電ゴムコネクタ(J1,J2)が劣化するためで、ebayなどで交換品が出ている。
(検索ワード:FLUKE LCD REPAIR)
交換しなくても、分解してコネクタ接触面をアルコールで拭き取ると復活する。
分解時に勘合ツメを折らないよう、気をつけるべき。

フルークやテクトロなど、米国製の計器はサービスマニュアルが公開されているから長く使える。
代理店経由だが、部品単品で取り寄せることもできる。IBMのThinkpadもそう。
日本製は残念ながら、あまりそういったところがない。
日本製の品質は高いのだが、メンテナンス性は米国製に劣る。
内部の作りも、米国製は整然と、国産は雑然としているものが多い。
見習うべき点と思う。

ぱくられたデザイン

80シリーズに限らず、FLUKEのデザインは各社がパクった。
液晶とロータリSW、プッシュSW、端子しかインタフェースが無いので似てくるのは致し方ないが、それでもよく似ていると思う。
これがアップルだと、訴訟になってしまうだろう。
今では当たり前となっているホルスターの装着もFLUKEが最初だったと思う。

上記よく似ているが、FLUKEではない。


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Created:2018/02/20
Updated:2018/08/18